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1. イントロダクション
企業の経営者が嫌う言葉はいろいろありますが、なかでも最も悪名高いのが「官僚的」という言葉です。企業の変革を行う動機の一つは、「官僚的な体質を打破することにある」といっても過言ではないのかもしれません。官僚制はそれほどまでに忌み嫌われているわけですが、今回はこの官僚制組織について考えて行くことにしましょう。ポイントは、「官僚的」とはどういうことか、企業経営において「官僚的」であることがなぜ嫌われるのか、「官僚制組織」とはそこまで嫌われることなのか、このような問題意識のもとで今回は進めて行くことにしましょう。
2. 官僚的とはどういうことか?
「あの会社は官僚的だ」などという言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。しかしその時に使っている「官僚的」という言葉はどのような意味で使っているのでしょうか。官僚的といったときどのようなイメージを持ちますか。たとえば役所などに電話をかけると電話をたらい回しにされたという経験をしたとき、もしかしたら皆さん「官僚的だなぁ」と思われるかもしれません。もしくはやたらと書類を書かされて提出しなければならないような状況に対して「官僚的だなぁ」と捉えるかもしれません。受付で愛想なく対応されたときも「まったく官僚的だ」と口ずさむかもしれません。まったく官僚と言う言葉は悪者で使われているようです。かりに電話のたらいまわしや文書ベースでのやり取り、もしくは愛想のない対応というのが官僚的であるというのであれば、なぜ人はそれらの減少を官僚的という代名詞を使って表現するのでしょうか。そもそも官僚的とはどのような現象をさしてそう呼ぶのでしょうか。
官僚制と言う言葉を組織論で使い始めたのはマックス・ウェーバーです。彼は、「感情を排除されたそれぞれの組織構成員が規則や手続に従って行動することによって、もたらされる結果が予測できるだろう、それため、組織は最も能率的かつ合理的に機能することになるだろう」と考えました。そのような組織を官僚制組織と呼んだわけです。機械のように命令通りに動き、命令に対していちいち疑問を持たないような人間(まさに機械的人間観です)で組織が構成されていると、その命令が命令通りに遂行されるので、もたらされる結果が予測できます。したがって、大規模な組織において、トップが一般社員を知らなくても、トップの命令が組織の下位階層にまで歪められずに伝えられ、命令通りに遂行されます。当初の目的がそのとおりに、しかもゆがめられることなく実行される=能率的に実行されることになるわけです。このような考え方に基づくと、組織のパフォーマンスを優れたものにするためには、命令さえ正しければいいことになります。
一般に、官僚制組織の特性は、以下の3つの言葉に集約されます。
集権化 :重要な意思決定は組織の上位階層で行われる。
公式化 :職務の遂行は明確な規則や手続きにしたがって行われる。
没人格性:人間関係は希薄化されている。
どれも「官僚的」と言われるものに感覚的にマッチしているのではないでしょうか。普通、官僚制という言葉は、行政組織などに対して使われますが、ウェーバーは、軍隊も含む政府の行政機関のみならず、企業や政党などの組織にもあてはまると言っています。企業の競争力が低下し、変革を行うときに、「官僚的な体質を変えていく」という言葉がよく言われますが、まさに上記の3つの特性はどのような組織にも当てはまる可能性があります。
たとえば「電話がたらい回しにされる」というのは官僚制の「公式化」という特徴が悪い方向に顕在化したといえるでしょう。官僚制組織では自分の職務権限の範囲内で行動することが求められています。そして人間関係が希薄な場合、他の部署が何をやっているのかわからないでしょう。そのような状況で、自分の部署に、担当ではないような内容の電話がかかってきた場合には、職務権限を越えない範囲でしか応答はできなくなります。正確な返答をするためには、自分で答えることはできず、他の部門にまわすことになります。しかし組織内での横のつながりが無い場合が多く、そのような時には間違ったところに電話が回されるということになる可能性は高いでしょう。つまり電話がたらい回しにされるというのは、普段から部門間の横のつながりが無いために、他の部門が何をやっているのかを組織構成員全体が共有していないということ、自分の職務権限および担当の範囲を越えて仕事をしようとしていないこと、の裏返しなのです。
3. 官僚制の逆機能
マックス・ウェーバーは、官僚制は大規模組織が不可避的に発展させる合理的な構造だと考えましたが、実際、官僚制は高度な管理技術が必要とされる大規模組織においてよく見られる組織現象です。大規模な組織の典型である軍隊組織を見てみましょう。戦争では一瞬の躊躇が勝敗を決したり生死を分けたりしますから、「恐い」などの感情を抱くようでは命令の遂行が遅れます。また、トップの意思決定が現場で勝手に解釈されて遂行されると、全体のコントロールが取れなくなります。よりスピーディな意思決定とその遂行が要求される場合には、上記3つの官僚的な特性を備えた組織にしないとだめなのかもしれません。
とは言うものの、企業が衰退していく一つの原因に、「大企業病」とか「官僚制組織になったからだ」と主張されることがあります。これは官僚制の逆機能と総称される、官僚制組織には悪い側面が現れていることが一つの原因です。この官僚制の逆機能が存在することが、官僚制組織という構造が嫌われることの大きな原因です。
官僚制の逆機能という言葉はマートンという社会学者が言い始めた言葉で、具体的には官僚制組織において起こる次のような現象を言います。
(1)訓練された無能
(2)最低許容行動
(3)顧客の不満足
(4)目標置換
(5)個人的成長の否定
(6)革新の阻害
(上記のポイントは野中郁次郎 『経営管理』 日経文庫による)
(1)訓練された無能とは、規則に固執することによって変化した状況に対応できなくなることです。大規模な組織を運営するために規則は不可欠ですが、行き過ぎると組織構成員は規則に固執するようになり、環境の変化に対して柔軟に対処することができなくなります。これは組織にとっては大きな問題です。
(2)規則は最低限許される行動を規定するものです。最低許容行動とは、組織構成員が、処罰を逃れるための規則に従って行動し、最低限許される行動しかとらなくなると言うことです。環境が流動的になり、組織のパフォーマンスがあがっていなくても、「規則を守っているからいいではないか」という言い逃れの余地を与えることになり、規則に従った行動=最低限の行動しかとらなくなると言うことです。
(3)規則を守る行動をとると言うことは、裏を返すと、顧客のニーズなどに対応した行動はとらないと言うことです。したがって官僚制組織の悪い側面が出た場合には、顧客の不満足を高めることになります。
(4)目標置換とは目的と手段が逆転してしまうと言うことです。規則はある目的を達成するために規定されているものですが、規則に従うことによって何らかの成功を収め、それが評価されるというプロセスが繰り返されることによって、規則を守ること自体が目的になってしまいます。このようにして手段が目的に転換してしまうのです。
(5)官僚制組織では効率性が要求されるわけですが、効率性が強調されることによって、コストのかかる「個人の成長」という側面は軽視されてしまいます。
(6)官僚制組織には保守的な傾向がある。新しいことを行おうとした場合には、既存の規則を大きく変革しなければならず、既得権益を保持している組織メンバーの抵抗を受けたり、自分の地位を脅かされるのではないか、既得権益を失うのではないかという意識から、組織メンバーの強力な抵抗を受けることにもなりかねません。また規則に従って行動したり、個人の役割が明確に規定されており、個人勘の相互作用があまり見られないことから、組織内部に革新の原動力の一つとなるコンフリクトが生じないことも革新が阻害される原因となります。
「規則に従う」「文書による管理」「人間性の欠如」など、官僚制組織は「硬い」イメージです。そのため組織内でのメンバー間の相互作用および共有化現象に起因する「知識創造」の側面がなく、環境の変化に柔軟に対応できないという批判があります。そのため官僚制組織の体質を持つ組織では、組織の存続が危ぶまれることになり、多くの企業で官僚制的特性を回避しようとするのです。
しかしモデル的には、一度命令が下されると、末端まで迅速に伝わり、さらに確実に命令が遂行されるというメリットもあります。つまりトップが正しい判断を下すのであれば、環境の変化に適応すること、そしてスピーディな経営を行うことも可能です。また規則に従って組織のメンバーが行動するので、相互に整合的な行動をとり、重複した行動など無駄が省かれます。また職務が明確に規定されることもあり、組織メンバー間の対立は想定されていません。官僚制組織は悪い点ばかりではなく、いい点も併せ持っています。そのため官僚制組織の言い点をどれだけ大きくひきだして、欠点をどれだけ少なくできるかという組織戦略も選択肢の中に当然入ってくるわけです。ホンダはかつて「ワイガヤ」といわれる、組織メンバー間でわいわい・がやがやとディスカッションを行うことを奨励していましたが、これでは命令及びその実行が遅くなるために、トップダウン型の組織構造に変革しました。これは必ずしもホンダが官僚制組織に移行したことを示す事例ではありませんが、必ずしも官僚制組織が悪いわけではないことを間接ながら示唆する事例と考えられます。
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