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1. イントロダクション
20世紀初頭、アメリカでは工業が急速に発展しました。ただ、現代の企業のように企業戦略を精緻に練り上げた上で企業の規模を拡大したとは必ずしも言えず、また組織の管理のあり方を整備しないまま、明確な方向性もなく生産規模を拡大していったこと、企業は、特に組織の内部管理の問題を抱えることになりました。この問題を解決しない限り、急速な経済成長が頭打ちもしくは低下することも考えられた。この問題に対してある種の解決を試みたのが、近代経営学の基礎を築いた人物とされるフレデリック・テーラーです。
2. 働けば働くほど賃金は下がる?〜賃金制度と怠け〜
読者の中には、まじめに仕事をしたり勉強している人もいれば、怠ける人もいるでしょう。テーラーが直面した管理の問題とは労働者の怠けの問題です。しかも少数の個人ではなく、組織全体で、−組織的怠業と言います−怠けていたわけです。しかし我々が一般に思い浮かべる怠けのイメージとは異なります。労働者が怠ける原因は賃金の決まり方に問題があったわけです。
基準の仕事量に対する実際の仕事量の比率によって各労働者の能率を判定し、それに応じて給与が変動する賃金制度を能率給と言います。能率給を実施するためには、各職務の基準仕事量がどれくらいか、また、基準仕事量に対してどの程度の給与を支払うか、そして能率の変化にしたがってどの程度給与の係数を変化させるのか、という3つのことを決めることが重要になります。能率が高い人には高い係数を給与に掛けることによって報いて行くわけです。
能率給の最初の形態は出来高給制度と言われるものです。これは正常な作業条件のもとで、基準仕事量に対する賃金(=基本給)に、基準仕事量に対する実際の仕事量の比率を賭けて賃金を算定する方式です。
テーラーの科学的管理法が確立する以前は、出来高給制度がとられていましたが、基準仕事量が科学的に決定されるのではなく、管理者の経験や勘で決定されていました。また出来高給は出来高を高くすると賃金も高くなるので、雇用者側はそれだけ人件費の負担が大きくなります。1900年代初頭という時期は、機械が積極的に導入されるようになり、生産性が飛躍的に上昇して行った時代です。すると、一人の労働者が達成する出来高も必然的に上昇して行きます。すると労働者の賃金水準が高くなるため、雇用者側としては賃金水準がある程度高くなると労務費を削減するために出来高単価を切り下げるという行動をとることになります。労働者側から見ると、働いても出来高単価が下がるわけですから、「仕事をしすぎると結果的に賃金率が低下してしまうのではないか」と考えるようになるでしょう。結果的に、労働者は勤労意欲をなくし、組織的怠業を引き起こすことになったのです。なにも労働者が単に怠けていて組織的怠業が発生したわけではなかったのです。
3. 課業管理と賃金制度の変革
この組織的怠業の問題を回避するために考え出されたのが、いわゆる課業管理です。課業(タスク)とは1日に完了すべき仕事量のことです。いわゆる「ノルマ」と同じようなものと考えればイメージがわきやすいでしょう。課業を設定することによって明確な評価規準が与えられることになりますから、進捗状況の確認などが可能になり、管理を行いやすくなると考えられたわけです。
課業を規定するためにテーラーが行ったことは、「動作研究」と「時間研究」と呼ばれるものです。動作研究とは、最も優秀な工員がどのような動作を行っているかを分析するものです。また時間研究とは、動作ごとにどのくらいの時間がかかっているかを研究するものです。この2つの研究から課業を設定し、課業を上回る人には高い賃金率を、課業をしたまわる人には低い賃金率を適用する賃金制度が取られるようになりました。これが差別的出来高給制と呼ばれるものです。
またテーラーは組織の構造も見直しました。それまでの管理は職長に一任されていましたが、課業管理を実施するためにはより厳密な管理が要求されることになるので、管理の仕事を細かく分け、それぞれの組織メンバーが果たすべき役割をきちんと遂行するという機能的管理を導入したのです。
このようなテーラーの管理法は総称して科学的管理法(テーラーシステム)とよばれ、広く受け入れられるようになりました。
4. テーラーの管理論の問題点
テーラーは課業を基準とする時間的管理によって工場内の組織的怠業の問題を解決し、完全な課業管理を達成するために、それまでの万能職長制度に替えて職能別職長制度を導入するなど様々な改革を行いましたが、いわゆる科学的管理法の導入に伴い、新たな問題点も発生するようになりました。
たとえば、組織で活動する人の働きがいが損なわれるという批判がされています。この問題の本質はその基礎となる人間観にあります。古典的管理論が仮定する従業員は、人間関係の場から切り離された機械的人間観に立脚しています。また賃金やその他の物的報酬に刺激される「経済人」の仮説が適用されます。人間の自主性や創造性などは全く考慮されておらず、強制力などによる管理が行われることになり、結果的には労働者のもつ人間性の排除につながったのです。
第二に、テーラー・システムは変化に対して適応力が低いという批判です。仕事の手順を標準化し、その仕事に応じて賃金を支払うという仕組みは、個々の作業を固定し、労働者が自ら環境変化に対応し、作業を改善して行くという活動を期待していません。たとえばファストフード店やファミリーレストランなどでは、アルバイトの学生がすぐにでも働けるように、作業手順などが非常にマニュアル化されています。笑い話にもよく出てきますが、ファミリーレストランで、一人で食事をしている人が、トイレに行くために席を立って、テーブルには誰も入ない状態であるにもかかわらず、ウェイトレスが「お下げしてもよろしいですか」と言った、という逸話があるほどです。仕事手順の標準化=マニュアル化は熟練作業者を必要とせず、「誰もがすぐに即戦力」の状態を作り出しますが、臨機応変に状況に適応できるかどうかというと疑問が残ります。
もちろん、テーラーが科学的管理法を唱えていたときは、作業条件に大きな変化が見られなかった急成長期ですから、アメリカの大量生産体制の効率化に大いに役立ちました。しかし、1970年以降盛んに起こった技術革新に対しては柔軟な対応ができず、むしろ効率向上を阻害する要因として働いてしまいました。アメリカ産業の衰退の原因を、このテーラー・
システムに始まる機械的管理観にあるという議論も展開されたほどです。
5. 管理過程論(マネジメント・サイクル)
テーラーは生産現場の作業管理を中心的に分析していきましたが、企業組織全体を管理する理論を構築したのはファヨールという人です。彼は1888年、炭鉱会社の社長に就任し、経営者としての役割を果たしていました。この経験から、理論的基礎に基づいた管理の方法を痛感し、後に産業ならびに一般の管理という本を出版することで、経営学の基本的、理論的枠組みを提供したわけです。
ファヨールは、企業が本質的に必ず行わなければならない活動として、生産・製造・加工という技術活動、購買や販売などの商業活動、資本の調達と運用である財務活動、財産や人員のほどを目的とする保全活動、在庫調整や貸借対照表および原価計算を行う会計活動、そして予測や命令を行う管理活動の6つをあげ、これらの活動を企業の目的達成に向けることが経営機能であると考えていました。
なかでもファヨールは管理機能を強調しています。というのは企業の規模が拡大するにつれて現場作業者など従業員が増え、それをいかに管理するかが非常に大きな問題になるからです。
ファヨールは管理を行う際の原則を規定しています。たとえば、特定の活動に対して、各従業員は一人の上司からのみ命令を受けるべきであるとする司令の統一、企業内で一従業員や一従業員集団の利益が企業の利益に優先してはならないという全体利益の優先、確実な情報伝達の必要性と司令統一のために階層的な経路を確立するという階層組織など、14もの管理の原則を指摘しています。これらの管理原則に対しては、サイモンが批判を行っていますが、現場の経営者の経験から引出されたものですから、経営者にとっては非常に示唆に富むものとなっています。
ファヨールは管理機能を計画、組織化、命令、調整、統制の5つの要素に分解しています。いわゆる「Plan Do See」と呼ばれているものです。そしてこれらの管理の要素が循環していくことによって管理の機能が果たされると考えていました。今期の計画を立て、実際に行動し、その結果を見て時期の計画にフィードバックして行くことが管理するにあたって重要だということです。「Plan
Do See」を繰り返し、繰り返しまわして行く、ということです。このため、ファヨールおよびその弟子たちは管理過程学派(マネジメント・サイクル)と呼ばれています。
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